インバウンドの恩恵にあずかれない地方の温泉地

温泉に行きたい外国人、外国人を迎えられない地方の温泉地

インタビュアー|

コロナ前は「モノ消費」、コロナ後は「コト消費」と言われ、観光庁調べでもインバウンドのニーズの上位に「温泉」がランクインしていますが実際もそうなんでしょうか?

柏原益夫|

やはり大都市や有名観光地へ訪れるインバウンドの方が多いですが、温泉のあるところを選ぶ傾向にあると肌感覚では感じています。
ただ、海外でも知られている「箱根や別府=温泉」という感じですね。

インタビュアー|

ということは、そこまでメジャーではない地方温泉はインバウンドの恩恵はそんなにないということですか?
柏屋旅館は結構早くから外国人向けの応対(館内サインや外国人向けの発信など)に注力されている印象はあります。

柏原益夫|

そうですね、うちは15年以上前から取り組みはじめました。
世界をマーケットにすれば宿泊・観光産業は成長産業だと思ってましたので。
でも、最初はかなり苦戦しました。
そもそも知られていないから、予約サイトでも検索すらされないんですよ…。

インタビュアー|

予約サイトをはじめとして、インバウンド客を迎え入れるのに必要なことって具体的にどんなことがありますか?

柏原益夫|

まずは何よりも重要なのが、海外でとにかく知られること。
場所で検索されないので、彼らが興味のある「コンテンツ」について英語でブログを沢山書くようにしました。
例えば、「貸切温泉」「温泉のエチケット」「ヴィーガン」「東京から近い田舎の温泉」などです。
ブログの記事が溜まってきたら、少しずつ検索され、見つけてもらえるようになりました。
英語のブログ記事、まずここからです。

お客さんのニーズを満たすが先? スタッフの意識を変えるが先?

インタビュアー|
外国人のお客さまが増えはじめて、「こんなことを求められるのか」とか「こういう準備が必要だった」とか、そんな「想定外のこと」っていくつもあったと思いますが、どんなことがありました?

柏原益夫|
それはもう、想定外の連続でした(笑)
予約が入っているのに来ない!ということが多発しました。
その後、予約時にカード決済を導入することで解決しました。

欧米の方は、滞在中にとても長い距離を歩かれるので、英語版の地域の地図が必要でした。
そして、浴衣も、スリッパも、日本人用のXLですら入らないという問題。
食事では、ヴィーガン、グルテンフリー、ハラル対応など求められるもの多種多様。

インタビュアー|
どこから着手されたのですか?

柏原益夫|
食事については、まず、ヴィーガン対応の宿泊プランをつくり、
それ以外はどこまで受付けOKとするかの「社内ルール」を固め直しました。

インタビュアー|
逆に、全然響かなかった対応は?

柏原益夫|
そこもいろいろ失敗が(笑)
逆に準備しすぎて失敗しました。
箸の代わりにフォークを用意したり、慣れない布団よりベッドがよかろうとベッドの部屋を案内したり。
でも、せっかく日本に来たのだから日本人と同じ接客を望まれる方が多かったです。
それが最大の予想外。

インタビュアー|
そこのさじ加減は難しそうですね。
「足りない」と満足度が下がってしまいますし、「余計」だとせっかくの日本感を下げてしまうし。
こういったことは、柏原さんのところは経験則から学んでいったのかもしれませんが、他の温泉宿はどうしているのでしょう?

柏原益夫|
みなさん「英語での接客ができないこと」が最大の要因だと思っているようですが、実は言葉はそんなに問題ではないと思っています。
海外の予約サイトに出せない宿はまだまだ多いですし、インバウンドのお客さまに対して身構えすぎて失敗していますね。
かつては、私たちも同じでした。
チェックイン時に怒って帰ってしまった方もいました。

うちは「Tattoo Friendly」ですが、日本特有ルールとしての「刺青お断り」が多いのも、自ら機会損失を招いているような気がします。

インタビュアー|
色々なインバウンド旅行者アンケートを見ると「英語が通じない」という困りごとが圧倒的に多いですが、言葉そのものではなく、迎え入れる側の意識の問題なんですね。

柏原益夫|
私たちのお客さまへ聞いても、多くの外国人旅行者は「日本の田舎で言葉が自由に通じるとは思っていない」です、そもそも。
そのアンケートは、本質ではなく表層的に言葉の問題にしてしまっているようにも感じてしまいますね。
日本人のお客さまと同じように、暖かな態度や笑顔でお迎えすることに尽きると思います。

インタビュアー|
柏原さんは四万温泉全体のことを考える立場にもおられましたが、そういった迎える側の意識を変えるためにどんなことに取り組んできましたか?

柏原益夫|
実はいろいろやっていまして、英語の先生を連れてきて地域で英会話教室を開いたことがあります。
もちろんそれは、英語を話せるようにではなく「英語が話せなくても大丈夫」と知ってもらうことが狙いでした。
他にも英語版の地域マップをつくって渡せるようにしたり、インバウンド対応は難しくないというキリクチで観光関係の方々へセミナーを行ったり。

インタビュアー|
変えるべきは「迎え入れる側の意識」に尽きますね。
有名温泉地もいいですが、地方温泉にしかない趣もありますし、ぜひそれを世界の人々へ伝えていきたいものですね!
      

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Author of this article

Masuo Kashiwabara
群馬県・四万温泉にて温泉旅館を経営。地域でのインバウンド客比率が3%にも満たない中、どこよりも早くインバウンド集客に経営をシフト。
その比率は20%越え、メディア等でユニークな作戦が報じられる。
近年は四万温泉地域全体のインバウンド客を増やそうとバイリンガルのネイチャーガイド/タウンガイドとして活動。日本全国にもバイリンガルガイドを増やしたいとセミナーを広げることに全力投球中。

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